静岡市立芹沢銈介美術館-芹沢銈介について

>60代

　昭和30（1955）年7月、自邸内に、カレンダーをはじめ、カード、うちわ、マッチのラベル、テーブルセンター等を量産する芹沢染紙研究所を設立しました。芹沢染紙研究所で生産される品々は、手ごろな値段と優れたデザインと品質で人気を博し、やがて膨大な数を生産するまでに至ります。たとえばその主力商品であるカレンダーに限っても、多い年には国内外に1万組（12万枚）を出荷した年さえあり、事業としても成功を収めたといえます。
　　昭和31（1956）年4月、「型絵染（かたえぞめ）」が重要無形文化財に指定され、芹沢はその保持者（人間国宝）に認定されました。これを大きな契機として、全国的な知名度を持つ作家となったといえます。同年7月には邸内に、土間と板場をもつ2階建ての大きな工房が建てられました。このころから染色志望の入門者も増え、本格的な染色工房としての体制が整えられていきました。

昭和34(1959)年、
鎌倉・腰越海岸でスケッチする芹沢銈介

　　さらに、昭和32（1957）年2月には、宮城県登米市石越町の板倉を自邸内に移築、自ら改装を施しました。主に応接間として使われ、作品の構想を練ったり、型紙を彫ったりする創作の場でもありました。
　　昭和33（1958）年1月、「所帯じみたくらしから離れて、気持を純粋にして仕事をやりたい」という考えから、豊かな自然に恵まれた鎌倉市津（津村）の農家の離れを借り、週に3、4日の独居生活を送り、また蒲田へ戻るという生活を始めます。この暮しは、この後10余年継続されました。
　制作に集中できる環境が整えられたこの時期、従来の染色の枠にとらわれない、創造的な作品を数多く制作しました。「御滝図のれん」（1962）、「丸紋いろは六曲屏風」（1963）、「鯛泳ぐ文着物」（1964）など、一目で芹沢とわかる作品の多くはこの頃に制作されています。

また新しいジャンルの仕事にも積極的に挑戦しました。昭和36(1961)年に朝日新聞に連載された佐藤春夫の『極楽から来た』の挿絵(全173図)は、新聞小説の挿絵をすべて型染で制作した意欲的な仕事で、多くのファンを獲得しました。また、倉敷の大原美術館工藝・東洋館の設計を担当し、昭和36（1961）年から昭和45（1970）年にかけて、3期に分けて完成させました。

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