内容： 昭和3（1928）年､33歳の芹沢銈介は､沖純の紅型(びんがた)の風呂敷を初めて見ました｡後にそのときの感激を｢その模様､その色､その材料､こんな美しい楽しい染物以上の染物があるか､と夢のような思いでした｣と述懐しています。その頃すでにロウケツ染を手がけていた芹沢でしたが､紅型と出会ったことにより本格的に染色家としての道を歩みはじめます｡以後紅型は芹沢の精神的な支柱となり､紅型へのあこがれは終生変わることがありませんでした。
昭和14(1939)年4月にはじめて沖縄の土を踏んだ芹沢は､2か月間の滞在を通して､地元の形附屋(かたちきや）に通って紅型の技を習得しました｡そのかたわら精力的に各地を見てまわり､沖縄の風物に非常に深い感動を受けました｡自然も､建物も､人の暮らしも､目に写るすべてが美しい「不思議の国｣｡……実は沖縄の風土そのもの､暮らしそのものが紅型の美しさの源泉だと知ったとき､芹沢の紅型に対する理解は一層深まったのでした。
翌15(1940)年も1か月間沖縄に滞在､のべ3か月にわたる見聞をもとに､後に「紅型のバイブル」と称された『琉球の形附』(1943)を著しました｡また沖縄で大量のスケッチをして帰った芹沢は､｢沖縄絵図｣｢沖縄三人女｣「壷屋のろくろ師」など､多くの作品を矢継ぎ早に制作し､またこれを境に芹沢の作風はより明るくのびのびとしたものに変化しました。戦前の沖縄での日々は､芹沢の中で永く美しい記憶として残り､戦後､『沖縄風物』(1948)､「沖縄風物文着物｣(1954）などの作品の中によみがえっています。
戦後は昭和38(1958)年を皮切りに､昭和45(1970)年までの間に5回沖縄に渡り､沖縄の染色家たちと親しく交わりました｡戦争によってほとんど途絶したかに思われた沖縄の紅型の復興ぶりを｢根から新しい芽を出し､花を咲かせたのが今日の紅型である｣､「古来の精神は沖縄に深く根ざしており､今後もくずれることはありえないと思う｣と評し､沖縄の持つ不思議な底力を驚きを見守っていました。
本展では､紅型に影響を受けて染色を始めた頃の初期作品､沖縄に取材した代表作など､あわせて85点の芹沢銈介作品を展示します｡また芹沢自身が収集した､紅型をはじめとする沖縄の優れた工芸品60点も展示し､芹沢と沖縄との深いつながりをご覧いただきます。（「不思議の国・沖縄と芹沢銈介」展リーフレットより）
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